【Avarice1】




 ―序―


 眩しいスポットライト、艶やかに磨き上げられた舞台、満員の客席。
 いつかそんな場所で主役を張ってみたい。
 大貫拓海は幼い頃から抱き続けたこの夢を諦めようとしたことはない。大人になるにつれ現実の厳しさを嫌というほど思い知らされたのは事実だったが、芝居をやりたいという気持ちが揺らぐことはなかった。

「芝居で食っていけると思っているのか?」

 友達からは鼻で笑われ、親には呆れられた。それでも拓海の夢は変わらなかった。どんなに辛くても、たとえ客に振り向いてもらえなくても、拓海はこれからも演じることに執着するだろう。
 信じていればいつかは叶う。たとえ端役でも、出番が一瞬であっても、演じることができればそれでいい。

 ――――――俺の欲張りな夢は、やはり夢のまま終わるのだろうか。


「大貫、お前に役をやる」

 団長からそう声をかけられたとき、拓海は正直「またか…」と思った。確かに端役でも出番が一瞬でも構わないとは言った。言ったが、アレが毎回続くとなるといい加減ゲンナリしてくる。
「お前は娘役だ。しっかり演ってくれよ」

 拓海の所属する劇団『success(サクセス)』はわずか十名で構成されるアマチュア弱小劇団だ。
 そのうち役者は五名。しかも全員が男という、かなりむさ苦しい劇団だ。女性団員も随時募集しているのだが、入団希望者がなく、代わり映えしないメンバーのまま数年が経過しているという有様だ。
 このような弱小劇団の活動はたかが知れているし、謝礼など無いに等しい。趣味で活動しているといっても過言ではなく、劇団員たちはバイトと掛け持ちしながら、稽古に励んでいるのだ。そういった事情がシビアな女性たちの足を遠退かせる原因になっているのかもしれない。どうせなら立派な設備が整った、それなりの劇団に入りたいと思うのが人情というものだ。
 しかし、女性団員がいないからといって女役をしないわけにもいかない。
 ただ、下手をすれば女装は笑いを誘うという団長の考えもあり、人選は真剣に行われた(コメディなら話は別だが)。芝居が変わるたびに女役を考えるのは億劫だから、ためしに役者全員に女装させてみて、正視に堪えた者に以後の女役が与えられることになったのだ。
 そこから先は想像に難くないだろう。

 そう、拓海が選ばれてしまったわけだ。確かに拓海は少々線が細いが、平均男性並みのガタイはしているつもりだ。女っぽいと言われたこともないし、むしろ演劇のために腹筋を鍛えていたから、いい身体つきをしているつもりだった。
 それが一回くらいなら諦めもつくが、以後の芝居に出てくる女役はほとんど拓海が演じることになったのだから、さすがに堪えた。もちろん女性が出てくる芝居に限っての話なのだが、男ばかりの芝居では、拓海の出番はほとんどない。良くてもエキストラ程度なのだ。
 だから女役は拓海の天職と言わなければいけないのだろうが、そう簡単に喜べるほど暢気な性格ではない。女役が貰えるのは女装が似合うというだけで演技の問題ではないのだろう。もしかすると演技の評価は皆無に等しいのかもしれない。そうなら男役など論外だ。

 しかし、どんな役でも貰えただけマシと思わなければいけない。そしてやはり拓海はいつものように団長の言葉に頷いてしまうのだった。



次へ